「地域医療と新幹線」研究報告会を開催しました

青森大学社会学部の櫛引素夫教授が研究代表を務める、「地域医療と新幹線」に関する科学研究費(科研費)助成事業の報告会が12月2日、青森市のあおもりスタートアップ・センターで開かれました。全国各地から対面・オンラインで約30人が参加し、新幹線がもたらした医療水準の向上や並行在来線の通院割引制度、医師の広域的な移動の実態と課題について理解を深めました。

報告会は科学研究費助成事業「地域医療に整備新幹線・並行在来線が及ぼす効果の地理学的研究と地域医療政策への貢献」(JSPS科研費21K01020、2021-2023年度)の研究代表者の櫛引教授と研究分担者の三原昌巳・昭和女子大学講師、大谷友男・富山国際大学准教授が主催し、青森大学付属総合研究所、青森大学社会連携センターが共催しました。研究成果のまとめを社会に還元する場として実施され、オンラインでは札幌や東京、福井、金沢、弘前などから、対面でも青森市内や函館市から参加がありました。

櫛引教授は、北海道の道南と青森県、岩手県北部、長野県北部、新潟県南西部にまたがる研究活動の概要を説明し、▼新青森駅前の青森新都市病院が新幹線駅前の立地という条件を活用し、北海道新幹線を利用した医師の往来によって脳カテーテル手術の水準を向上させた▼岩手県の並行在来線・IGRいわて銀河鉄道が、岩手県北部から盛岡市内への住民の通院を支援する「IGR地域医療ライン・あんしん通院きっぷ」を展開-といった事例を報告しました。

三原講師は、研究成果のうち、抽出した医療機関へのアンケートおよびヒアリングに基づき、上越地域と八戸地域に焦点をあてて、新幹線開業後における医療従事者の長距離移動の実態を報告しました。とくに、新幹線開業から20年が経過した八戸地域において医師の新幹線通勤が常態化している病院がみられ、上越地域においても首都圏から医師を獲得している例がみられることを報告し、医療提供体制の在り方を検討するうえで医師の移動負担の削減をも考慮すべきと提起しました。

大谷准教授は、道南の5医療機関へのヒアリングに基づき、▼大学医学部がなく弘前大や北大、札幌医大などの医師派遣に依存せざるを得ない状態にある▼新幹線や航空機で通勤する医師の勤務形態は、週1回程度・1~3日が多く、常勤の医師の勤務を補完する意味合いが強い▼この態勢によって安定的な医療サービスの提供が可能になっており、2024年問題への対応でも重要ーなどと指摘した上で「新幹線の効果は『何人運んだか』という視点で評価されがちで、このように『週1回・1人が移動する』といったケースでは効果の対象とみなされにくい。しかし、新幹線や航空機による通勤が可能なことで、地域における医療サービスの水準が確保されることは、『数』だけでは測り得ない効果として評価されてよいのでは」と強調しました。

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