25 日なたと日陰

 登山家の野口健さんから小学生向けの『登り続ける、ということ』(学研プラス)という本が送られてきた。野口さんは青森大学の大学院に在籍していたことがあり、私のゼミ生でした。野口さんは25歳で世界最高峰のエベレスト8,848mをはじめ世界7大陸の最高峰をすべて登り、一躍有名になった人です。富士山の清掃登山などでテレビなどにも出演しているので知っている人も多いでしょう。
 この本のテーマは「日向(ひなた、日のあたるところ)ではなく日陰(ひかげ、陰の部分)にこそ真実がある」ということを子どもたちに伝えることです。これは、野口さんが世界最年少で7大陸の最高峰の登頂に成功した時に彼のお父さんが言った言葉です。
 野口さんのお母さんはエジプト人、お父さんは日本人です。目鼻立ちがくっきりし、日本人離れの顔立ちですので、小学生のころは陰惨なイジメに会いました。自分たちと違う人をいじめるという日本人の悪いところです。いじめられて家に帰るとお母さんは「負けて帰ってくるな。勝つまで闘ってきなさい」と家に入れてくれなかったそうです。
 中学、高校は、外交官だったお父さんに連れられてエジプト、イギリスと住みました。日本人学校に通ったのですが、いろいろ悪さをし、イギリスの高校では停学となり、日本に帰されます。そこで野口さんは日本中を旅して歩いたのです。京都の本屋さんで有名な探検家・登山家である植村直己さんが書いた『青春を山に賭けて』という本に出会います。その本には「落ちこぼれで自信がなかった植村さんが登山で自信をつけていく」過程が描かれていました。学校にはなじめなかった野口さんはこの本に感動し登山にのめり込んでいく。
 エベレストに登頂した後、野口さんは登山における「日陰」を目の当たりにします。シェルパと呼ばれる登山のサポーターの貧乏な生活。山で遭難しても保証がなく、家族は路頭に迷う。野口さんはすぐ様「シェルパ基金」を作り、広く基金を募集し、遺児たちの救済に走りました。そしてネパール中に小学校を作り始める。ネパールの子どもたちに日本でいらなくなったランドセルをプレゼント。さらには登山隊が残したゴミであふれているエベレストの清掃登山を開始。そして富士山での清掃活動。2015年のネパール大地震での救済活動。続く植林活動。2016年の熊本地震の救援と、留まることを知らない精力的な活動です。
 野口さんはこう書いています。「山を登っていると何か力が湧いてくる。怪我などで山に登らないときはいろいろな活動に気が入らない」。そして、野口さんは「登山でエネルギーをもらっているんだ」と気が付きます。
 野口さんは今、地球温暖化を心配し、SDGsなどに取り組み始めています。そのためにも「山に登り続ける」と言います。それが私に贈ってくれた本のタイトル『登り続ける、ということ』なのです。もっと応援したくなりました。

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