19 雪のむつ市

 1泊2日でむつ市を訪れました。青森大学むつキャンパスの事前準備のため、むつ市内の高校や商工会議所、市役所などを訪問させていただきました。みなさん大変暖かく迎えてくださいました。
 むつ市の人々と協議を重ねましたが、非常に前向きで、ありがたく思いました。街を見て、食べて、車で何度も走って、何ともいえぬポテンシャルを感じました。まず自然が美しい。むつ市副市長の鎌田さんが撮影した薬研(やげん)渓谷の美しい写真集。そこには人の手に荒らされていない無垢(むく)の自然がありました。
 もう30年も前にシベリアのアニュイ川という大きな川をゴムボートで下ったことがあります。ハバロフスクからヘリコプターで川の上流に落としてもらって、そこから一週間かけて町まで下ったのですが、その時見た無垢の自然の圧倒的な存在感。熊と虎が出るので、ハンター2人とシベリアンハスキー2頭を連れて、60センチぐらいの鱒(ます)を釣りながら、それを食べてのワイルドな旅でした。
 その時、最も印象に残ったのが、人の気配が全くない自然というものの美しさでした。旅の間、人の気配を感じたのは空高く飛ぶ飛行機1機のみでした。あのシベリアのタイガ(森林)を川の流れに沿って揺られていく感覚は忘れられませんが、その感覚が、鎌田さんの写真を見て蘇(よみがえ)りました。30年ぶりのことです。
 下北半島の無垢の自然は大きな価値を生むようになると思います。これまでは、役に立たない土地だから、と放置されていたのかもしれませんが、21世紀は逆でしょう。この自然を守り、活かしながらの新しい観光が目の前に開けています。
 人口5万7,000の本州最北端の市ですが、中心部の大きさや経済規模などを考えると5Gの普及にはもってこいの条件です。自動運転や遠隔医療など可能性が詰まっています。大間のマグロだって東京に出すだけでなく、インターネットで世界に売り出せないか。夢は膨らみます。
 下北の若者をむつ市で育て、地域に残ってもらう。そして若い発想で新たなビジネスを興し、行政を改革する。その手助けをしたい。それが青森大学むつキャンパスの狙いです。令和3年度の一期生には、将来、青森大学の教授になってもらいたいし、事務職員も欲しい。地域の役所にも入ってもらい、自衛隊や農協などにも大卒で就職してもらう。さらには家業を継ぎ、承継ベンチャーを盛んにしていただきたい。それだけでも20人以上の新たな行く先が見えています。
 青森大学は青森と東京にキャンパスがあります。むつキャンパスの学生は東京でも青森でも勉強できます。ふるさとを出て、ふるさとの良いところ、遅れているところなどをじっくり見て、「世界の中のむつ市」を見据えた上でむつ市に帰ってもらいたいのです。
 むつ市を訪れて、むつキャンパスの意味がまたはっきり見えてきた気がします。

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