55 長髪と坊主頭

 熱闘・甲子園は神奈川県代表の慶応高校が優勝しました。今年、気が付いたのは、慶応高校をはじめ長髪のチームが多くなったことでした。高校野球というと、以前は丸坊主が当たり前でした。長髪は時代の流れでしょうか。私は大変良いことだと思います。
 青森山田高校の野球部は5年ぐらい前までは坊主頭でした。私は、高校野球はなぜ坊主頭なのか以前から納得いきませんでした。ある時、兜森監督や特別コーチの渋谷さんらと食事した時、「どうして坊主頭なのか」と聞いてみました。若いコーチらが「髪の毛が洗いやすい」「髪のスタイルなどに気が散る」「汗をかくと、長髪は不潔になる」など意見を出しましたが、私は「アメリカの学生野球は坊主ではない」「サッカーも運動量が多いが、不潔なのか」「坊主である合理的な理由がない」だから「長髪であっても坊主でも変わりはないではないか」と突っ込んでみました。
 「要するに、昔から坊主だったのでそれを受け継いでいるだけではないか」と言ったら、渋谷特別コーチが「そうだよ、岡島先生の言うとおりだ。坊主でなければならない理由はない」とおっしゃった。渋谷さんのひと声で流れは変わり、大勢は「髪型は自由」に傾いたのです。結局「長髪でもいい」ということになり、「髪型は自由、坊主でもいいし、スポーツ刈りでもいい」となりました。
 その頃はまだ東北ではほとんどが坊主でしたので、青森山田が長髪OKになったことは大きな話題になりました。残念ながら、その後、甲子園には行けていませんので、坊主頭派が「やっぱりだめだよ」と陰口をたたくのも耳に入ってきました。でも3年前には夏の県大会で優勝したんですよ。その時は甲子園大会がコロナで中止になってしまいましたので甲子園で颯爽と髪をなびかせることはできませんでした。
 ここで強調したいのは、長髪がいいか、坊主がいいかということではなく「何となく昔からそうだった」という考え方が発展を阻む原因になることだ、ということです。なぜ坊主なのか、ということを深く考えずに黙って従っている。そんな姿勢が良くないのです。
 私が坊主をやめようと言い出したもう一つの理由は、野球部員がとても良い顔をしているのに、坊主にしたとたん個性がなくなることでした。よく見ると、とてもハンサムで個性的な顔なのに、坊主がゆえに気持ち悪い顔になることでした。これでは女の子が逃げてしまう、という同情心からでした。サッカーやラグビーのように個性ある顔が並んでいれば女性のファンがもっと増えるのに、という思いがありました。
 最近、青森山田高校野球部の若いOBの方々に話を聞いたのですが「長髪OKは超うれしかった」と口々に話すのです。スカートの長さを計ったり、髪型に注文を付けたり服装の規制をしたり、私が高校生だったら、とても息苦しいだろう規則・規制が多いことへの疑問が長髪論議を提起した原因だったかもしれません。
 現代は親や先生たちが子どもにやかましすぎるのではないかと感じています。もっと放っておけないのだろうか。私が子供のころは、親から勉強しろだの危ないから駄目などと言われたことはほとんどありませんでした。学校から帰るとランドセルを放り出して一日中外で遊んでいました。塾などありません。今は何でもみんなと同じようにしつけられてしまっているのではないでしょうか。子どもにもっと自由を、と言いたい。
 青森山田学園は、何よりも自由や多様性を大事にしたい。危険を自分で回避できる子を育てたい。学校の仕事をうんと手伝わせたい。一緒に学校を創る喜びを伝えたい。津軽弁を自由に話せるようにしたい。地域に誇りを持たせたい。そう思っています。

参考記事(写真も)
元阪神タイガースの鳥谷敬氏(42)が日刊スポーツのオンライン記事で次のように語っています。
2023年8月25日11時0分<鳥谷スペシャル>
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 今夏の甲子園では髪形にも例年以上の注目が集まりました。全校を確認したわけではないですが、全国制覇した慶応高校をはじめ、丸刈りを強制しないチームが明らかに増えている印象です。これは前向きな傾向だと個人的には感じます。誤解のないように先に補足しますが、丸刈りがダメ、長髪がいい、という意味ではありません。本来個人の自由である選択肢が1つに強制されるのはおかしかった、ということです。「強制」がなくなることが一番大事だと考えます。
 自分はもともと少年時代から野球界の理不尽な部分にずっと違和感を感じていました。
当時はまだ残っていた「水を飲むな」という教えもそうですし、髪形もそう。なぜ丸刈りでないといけないのか、どうしても理由を見いだせなかったのです。野球の場合、帽子をかぶったら丸刈りだろうが長髪だろうがプレーに影響はありません。むしろサッカーの方がヘディングするし、走っていて邪魔になったりもしそうなのに、野球は丸刈りでサッカーは自由という風潮に納得できずにいました。
なので、中学、高校時代は丸刈りを強制されないシニア、学校を選びました。もし通える学校で丸刈りじゃなくても大丈夫なチームがなければ、それこそ野球を辞めていたかもしれません。実際、丸刈りが嫌で野球を辞めた学生もかつては少なくなかったと思います。野球人口が減っている中、これ以上そんな少年を増やさないでほしいと切に願います。
 もし学校の中でルールがあるのであれば最低限のルールは守る。その中で周りの人たちに不快感を与えたり、競技をする上で邪魔になったりしない範囲であれば、基本的にどんな髪形であろうが関係ない。もちろん丸刈りにしたい球児は丸刈りにすればいいし、少し長めが好きな球児はそうすればいい。1つのチーム内にいろんな髪形の選手がいて当たり前という時代になってほしいものです。
 自分は昨年からパリ五輪を目指す選手の取材を続けており、あらゆる競技のプレーヤーと話をさせてもらってきました。ブレイキンにスケートボード、レスリングに陸上、バスケットボール、クライミング、BMX…。7月には福岡で世界水泳のアーティスティックスイミングも観戦させてもらいました。自分たちの子供の頃よりもスポーツの選択肢が増えているのは間違いありません。魅力的な他競技との競争の中、野球も今のうちに不必要なマイナス要因を見直していくのは非常に大切な作業だと感じます。
 最近ではフェンシングの世界選手権で2連覇を果たした江村美咲選手と対談させてもらいました。江村選手は手を使う競技性もあって、爪を丁寧に短くされていました。一方で髪の色は気分に合わせて楽しんでいる様子でした。もちろん江村選手のようなプロ選手と学生を一緒にするつもりはありませんが、球児だってプレーに影響のない範囲であれば髪形を楽しんでもいいのではないでしょうか。
 今、野球界は岐路に立っているように思います。高校野球でいえば、甲子園は夏の真昼にやらないといけないのかという議論も出てきています。高額なグラブなどを買えない、金銭的に余裕がない子供たちのサポートも必要だと感じます。もう1度、1人でも多くの子供たちに白球を手にしてもらうためにも、より良い環境を皆で模索していかなければなりません。

 

 

 

 

 

 

 

聖望学園時代の鳥谷敬氏(1999年7月) 慶応高校の丸田湊斗君(2023年8月)

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