52 本を売る日々

 新聞の書評を見て『本を売る日々』(青山文平、文芸春秋) という本をアマゾンで購入しました。江戸時代の本屋さんを主人公にした短編小説が3本掲載されています。書評では、荒れていたイメージだった江戸の農村が、実は知的豊かさに満ちている、というようなことが書かれており、過疎地域の再生を気にしている身としては興味があり、読みたくなったのです。
 3編とも面白かったのですが、中でも「初めての開板」という話が良かった。ある医者が名のある先生に入門をしようとするのですが、待合室に・・・。いや、これ以上書くとこの本を買って読もうとする人に種明かしをするようで、止めておきますが、話の核心は、門外不出とか一子相伝とか、家系がどうのというのは意味がなく、大切なものは全ての人の共有物だ、と著者が語っていることです。
 この物語に登場する、主人公ではないが高潔な医者が語る部分に感銘を受けました。その部分を次に引用します。

 医は一人では前に進めません。みんなが技を高めて、全体の水準が上がって、初めて、その先へ進みだす者が出るのです。そのためには、みんなが最新の成果を明らかにして、みんなで試して、互いに認め合い、互いに叩き合わなければなりません。それを繰り返しているうちに、気が付くと、みんなで、はるか彼方に見えた高みにいて、ふと、見上げると、もう何人かは、それよりさらに高いところに居ることになるのです。一人で成果を抱え込むのではなく、俺はここまで来た、いや、俺はそこよりもっと先に居ると、みんなで自慢しあわなければ駄目なのです。

 残念ながら、この国では、一子相伝とか、何とか伝授とか、なになにの奥義とかそういう仕組みが根差しています。(略) それでは限られた者たちで過去の利益を分け合うということなのです。(略) 医はそうはいかぬのです、生きるか死ぬかであり、生かすか殺すかなのです。

 少し引用が長くなりましたが、今の私の心境を鏡のように映してくれているようで、心強くなれたからです。この本では医の話ですが、あらゆるところに同じことが言えるでしょう。自分のことを言えば、青森山田学園を地域の人々に開かれた学園にすべきであるし、私を含め、生徒、学生、教職員はお互いに切磋琢磨すべきでしょう。
 青森で地域の皆さんに喜ばれる学校ならば、同じ思いで地域社会を励ましている学校とも連携ができるでしょう。日本中の人口減で悩んでいる地域に手を差し伸べてもいい。自分の学校だけが繁栄すれば良いというものでもありません。一方、自分の学校が衰退して無くなってしまっては元も子もありません。
 これからのIT時代、世の中は大きく変わっていきます。その激流の中に青森山田という船をどう漕ぎだせばよいのか、難しいところです。それも、これまでに書いてきた理想を掲げての話です。難しい。でも、やりがいはありますね。

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