51 春の訪れ

 入学式の季節が巡ってきました。今年はコロナが弱まって、久々ににぎやかで楽しい入学式となったところも多かったと思います。
 毎年、フレッシュな顔ぶれがそろい、学生・生徒・園児たちの目は輝いています。本人たちは気が付いていないかもしれませんが、どの子も実に良い顔をしています。真っすぐ前を向いて、学長、校長、園長先生の言葉に耳を傾けています。
 この子たちの成長の手助けをするのだと思うと、気が引き締まります。誰一人として「どうでもいい子」はいません。誰にも希望はあるし、個性がある。しかし、この個性の捉え方が案外難しい。先生はとかく成績の良い子や従順な子を好みがちです。言うことを聞かない子、わんぱくな子はめんどくさい、と思ってしまうことが多いですね。私も12年ほど女子大学で教えていましたが、ある時、学生の中で成績の良い子を「できる子」だ、と思っている自分に気が付きました。
 自分が学生の時はどうだったのか、考えてみれば決して従順ではなく、成績も超低空飛行でした。でも学業以外の部分では自分なりに頑張っていたと思います。にもかかわらず、です。教える立場になってみると、いつの間にか成績で人を判断するようになっていたのです。
 ケン・ロビンソンというイギリスの教育学者の話を聞いたことがあります。YouTubeのTEDという番組ですが、その中で、ミュージカルの「キャッツ(Cats)」や「オペラ座の怪人(The Phantom of the Opera)」の振り付けで知られた英国のジリアン・リンさんの話がおもしろかった。
 ジリアンは今で言う発達障害だったようです。集中力がなく教室でもじっとしていられなかった。両親は、学校から医者に見せるよう言われ、親はジリアンを連れて専門家に相談に行きました。お医者さんは20分ほど話を聞いた後、ラジオのスイッチを入れて、お母さんに「別室で彼女の行動を見ましょう」といって子どもを残して立去ります。お母さんとお医者さんが外から部屋の中を見てみると、 ジリアンは音楽に合わせて夢中でダンスを踊っていました。そしてお医者さんは母親に言ったんです。 「お母さん、ジリアンは病気なんかじゃありません。ダンサーですよ」 「ダンススクールに通わせてあげなさい」。
 ジリアンはダンス学校に行かせてもらいました。「どんなに楽しかったか言葉じゃ表せない!」 「ダンススクールには私みたいな子ばかりいた」 「みんなじっとしていられない。考えるのにまず体を使わなくちゃ」。ジリアンはめきめき頭角を現し、ついに世界的に知られる舞台プロデューサーになり、何百万人もの人に感動と喜びを与えました。
 ロビンソン先生は「子どもは誰もが比類のない才能を持つ。その才能を殺してしまうのが現代の教育だ」と指摘しています。
 青森山田学園の新入生全員の個性を見つけて才能を伸ばしてあげたい。毎年その思いが強くなります。

YouTubeでのケン・ロビンソン先生(2020年8月、70歳で死去)

ジリアン・リンさん(2018年7月、92歳で死去)

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