05 生きてるだけで丸儲け

 いつだったか忘れたけれど、タレントの明石家さんまが「生きてるだけで人生丸儲け」というようなことを話していました。飛行機に乗りそこなったら、その飛行機が墜落したというような話だったと記憶していますが、ともかくこの発言は古今東西の哲学、宗教などが繰り返し伝えてきていることと同じです。お笑いタレントのたわごとではなく、案外意味の深い話だと感じながら、さんまさんの話を聞いていました。
 生きている現在に感謝をする、ということでしょう。人生は紆余曲折(うよきょくせつ)あって、楽しい時があれば、つらい時もある。山あり谷ありです。時に絶望的な気持ちになることもあるでしょう。自分の境遇を悲しく思うこともあるでしょう。しかし、何はともあれ、命あることは素晴らしいことなのです。
 コンピューターのアップル社を創立したスティーブ・ジョブズ氏は死期が迫ったときに「私は様々な面で成功してきた。そして多くの富を得た。しかしそれに一体何の意味があるのだろうか」と自問しています。
 私は若い時から先鋭的な登山をしてきましたので、生きていることのありがたさを感じることが多かった。大学時代に12人もの山友達が遭難して亡くなりました。自分自身もヒヤッとしたことが幾度もあり、一つ間違えば死んでいたような場面にも直面しました。その後もチョモランマ(エベレスト)登山で一緒に過ごした屈強な登山家たちが何人もヒマラヤで帰らぬ人となっています。先鋭的な登山を40歳過ぎまで続けた人の多くは山で命を落としています。
 500mも切り立った岩壁の真っただ中で、吹雪に叩かれ、3日も4日もザイルにぶら下がって天候の回復を祈り続けていた時などは、生きて帰れることだけを考えていました。人間生きてさえいれば何とかなる。山登りで私はそんなことを身に染みて覚えたのでしょう。その後の人生で、難しい課題に直面した時、「失敗しても死にはしないよ」とばかり思い切って飛び込んだことが何度かありました。
 「生きているだけで丸儲け」という気持ちさえあれば、もう少し気楽に過ごせるのではないでしょうか。コロナだ、不況だ、と沈みがちな空気を追い払うため、さんまさん、丸儲けの話をまたテレビで話してくれませんか。

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