12 10月の山

 10月という季節はなかなか複雑ですね。寒かったり暑かったり。「女心と秋の空」といわれ、変わりやすい天気の例えとされたりします。3,000mクラスの山ではもう冬山の装備が必要です。1,000m程度の山は小春日和のような楽しい山歩きが楽しめます。
 山の歌で「冬山までにはまだ遠い、スキーの手入れにゃまだ早い、飛び出したところが八ヶ岳……」という歌がありますが、いずれにしてもなかなか焦点が合わない季節です。
 今から30年以上前、令和天皇陛下がまだ皇太子殿下であったころですが、殿下のお供をして、秋の奥只見の山々を登ったことがあります。ちょうどお嫁さんの話が持ち上がったころでした。殿下は常々、平が岳(2,141m)という山に登りたいとおっしゃっていましたが、それが実現したのです。頂上で殿下はとても満足そうな表情でした。あの時も変わりやすい天気がうまく晴れて、紅葉が見事でした。(註)
 皇太子殿下が山に登るのは大変な準備が必要です。私たち庶民が登るのとはわけが違い、ありとあらゆることに気を配らなければなりません。お父君の平成天皇からは「人に迷惑がかかる登山は絶対にしてはならない」といわれていましたので、混み合う山にはいけません。
行きたい山があっても人が少ない時を選ばなければなりません。また、危険度が高いところも許されません。冬山と岩登りはできません。
 「岡島さん、私は山に行きたくても行けないときは、東宮御所の窓から山のある方を見て写真で見た山の姿を思い浮かべるのです」
 殿下はそう言っていました。本で見た山を連想して、山に行けないさみしさを補っていたのでしょう。本当に山がお好きだった。山の本をたくさん読んでおられて知識は豊富でした。その知識を駆使して、形がよく、堂々としている山、さらに人があまり行かない山を選ぶのがお上手でした。いわば玄人好みの山を選択するのです。
 次はこの山を登りたいんです、とおっしゃった後、私が「よく(そんな山を)ご存じですね」と聞くと、恥じらうような笑顔をみせながら「本で調べました」という答えが返ってくるのでした。
 体力もありました。南アルプスの赤石岳(3,121m)を登った時、初日は千枚岳(2,880m)を登りきるコースでかなりきつかったのですが、殿下は20㌔の荷を担いで登りました。テント泊だったので寝袋や着替えなど自分のものは自分で背負ったのです。お付きの護衛警官が疲れ果てて、新聞記者から「護衛が務まらないよ」と冷やかされていました。
 英国に留学されていた時にはスコットランド、ウエールズ、イングランドそれぞれの最高峰を登っていますし、ネパールご訪問の際にはトレッキングも楽しんでおられる。結婚されてもいくつかの山に登られていますが、天皇陛下になられた後はさすがに登る機会が減るでしょう。でも、八甲田は可能性があるかもしれない。立派な山だし、ケーブルカーもある。
 いつの日か、青森にいらっしゃらないかな、と思っています。
 
 註 平が岳登山では一部の人から「自然を破壊してわざわざ道を作った」と言われたことがありましたが、実際は道を整備しただけですので、改めてここで記しておきます。

 千枚岳頂上付近を登られる浩宮様(現令和天皇、前から2番目)

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