30 幼児と自然

 休みを利用して本の整理をしていたら、「幼稚園じほう」という小雑誌に書いた文章が目にとまった。中央教育審議会の委員をしていた時期に書いたもので、雑誌は全国国公立幼稚園長会の会報でした。今でも通じるような気がしてこのブログに採用してみます。
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 いつのころからだろうか、子どもたちが公園から消えた。テレビゲームが出てきたころからだったか。いや、もっと前からだったような気がする。
 子どもたちの遊びに季節感がなくなってきた。先生も親も外で遊ぶように言わなくなった。子どもたちは今、無菌状態の中で育てられているようだ。
 私たちが子どものころ、学校から帰ると夕食まではかなり自由な時間であり、近所の子たちと野山を走り回っていた。だからといって勉強のレベルが落ちていたとは思えない。それこそノーベル賞学者もいるし、世界的な発明をした科学者、研究者も多い。子どものころに外で日暮れまで走り回り、子供たちだけで様々な工夫をして遊ぶことは決してマイナスではなく、むしろその後の創造的な仕事へと結びついていくことの方が多かったのではないかと思う。
 自然の中で子どもたちだけで遊ぶことにより、学校では習うことがない知恵が鍛えられ、命の尊さを知り、そして様々な創造力をはぐくむことができる。
 アメリカの教育学者、J.デューイらが「教室で習うことは教室で、屋外で習うことは屋外で、教えるべきだ」と主張したように、知識の習得と同時に、自主性、感性などを養う体験活動が必要だと思う。レイチェル・カーソンは「感性は知識を養う土壌です」と言い、特に感性が豊かな幼児期に自然体験をするよう勧めている。人間の幼児期にとって様々な体験、中でも自然体験は不可欠なものに違いない。
 にもかかわらず、今の子どもたちは、幼児期を含めて、手伝いや集団で遊ぶことの体験も、自然の中で遊ぶことも非常に少ない。
 今こそ幼児と自然について再検討するときではないだろうか。幼児にとっては小さな庭でも大自然同様に不思議が詰まっているし、樹木が十本もあれば森なのだ。子どもたちを外に連れ出してほしい。
 自然の中で遊んだ経験が少なく、どうしたらよいか分からない先生に対する支援もしたい。大学生などの教員志望者に対する体験教育も必要だろう。若い親にとってもそうした機会があったらいい。
 幼児教育に自然体験を取り入れる総合的な戦略が欲しいと強く思う。
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 青森ではそろそろ秋めいてきます。小さなお子さんをお持ちの方はぜひ野山に出かけてみてください。親子で一緒に小さな自然探検をしてみたらいかがでしょう。

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